ゴールデンウイーク直前のある日、お墓掃除の仕事も終わり、以前私や父、祖父が関わったお墓に不備がないか点検していました。
同じように見えるお墓にも作り手の想いや技術が反映されており、お墓ごとに特徴があります。
特に自分が師事した人のお墓であればほとんどわかります。
うちは祖父の代からの石屋ですから、地元である立山町の墓地には祖父や父が関わったお墓が多くあります。
そのお墓に不備や損傷がないか調べて、軽微なものならその場で修理しています。
で、そんな感じでお墓を見て回っていると、ハチが巣を作っていました
30基ほど見て回り2つのハチの巣を発見。
お墓の約6.6%、お墓が100基あれば6~7基にハチの巣がある計算になります。
墓地によって増減はあると思いますが、私の経験から言っても、100基くらいお墓が集まっていたら3つくらいはハチの巣を見つけます。
それくらい『お墓』というのはハチが巣を作りやすいところなのです。
ハチに刺されると最悪死ぬ
蜂(ハチ)とは羽で空を飛び黄色と黒が目を引く、昆虫の一種です。
実は蟻(アリ)の仲間。
お尻に針があり、種類によっては毒を持つものもいます。
有名スズメバチやアシナガバチは毒を持つ種類で、刺されるとショック症状を起こし、時には人の命を奪うことがあるので注意が必要です。
ハチ毒アレルギーは1回でも危険
よく「ハチは1回刺されると抗体ができ、2回目に刺されたときにアナフィラキシーショック(抗体の過剰反応によるショック症状)を起こし危険である」と思われていますが、1回目でもアナフィラキシーショックを起こす危険性があります。
ハチによる被害は毎年数千件起きており、死亡事故も2桁になります。
その多くはスズメバチですが、墓地でよく見かけるアシナガバチによる事故も少なくはありません。
ですからお墓にハチが巣を作っているのを見かけたら、慎重に対処する必要があるのです。
ハチの巣作りは3月末から。被害のピークは8月
ハチは3月末から、遅くても4月になると巣作りを始めます。
あたたかくなるにつれ巣は大きくなり、ハチの性格も攻撃的に。
ですから、一番お墓ミリにに行くお盆のころ、富山県では8月はハチに刺される患者数がとびぬけて多くなります。
安藤 幸穂:『ハチ刺症患者の治療について』 蜂刺されの予防と治療
林野庁管理部厚生課監修・国有林野事業安全管理研究会編集 林業・木材製造業労働災害防止協会:174, 1996より改変
放置できないハチの巣
毒針を持つハチでも、近づかなければ攻撃してきません。
ですから、こちらから刺激をしなければ刺されることはまずありません。
ただ、自分の家のお墓にハチが巣を作っていたとき、そのまま放置しておくわけにはいきませんよね。
お参りに来た親族や、隣接するお墓に来た方が刺されるかもしれません。
ですからお墓に作られたハチの巣は放置できません。
必ず駆除する必要があります。
ハチが巣を作らないようにする対策
ハチが巣を作りやすいところ
ハチは日当たりの良い、巣箱のような『囲い込まれており、穴のような出入口がある空間』に巣を作る傾向があります。
お墓だと笠式香炉や灯篭の灯袋がそれにあたります。
ハチが入らないように穴をふさぐ
ハチが出入りしないようにあらかじめ穴をふさぐ方法が最も有効です。
写真ではステンレスの網を使い、穴をふさいでいます。
木酢液や竹酢液を置いておく
小鉢などに虫が嫌う木酢液や竹酢液を染み込ませたスポンジを置いておきます。
ただ、すでに巣を作っている場合、木酢液を振りかけても興奮するだけで効果はありません(体験済み)。
お墓職人がしている、墓地でハチの巣を見つけた時の応急処置
日中、外気温があたたかい時間帯にハチの巣を見つけた時、ハチの巣には触らないことをオススメしています。
気温が高い日中は、ハチの活動も活発で刺される危険性が大きいからです。
ただそのまま放置して帰るわけにもいかない・・・
そんなときは、ハチが笠式香炉の中や灯篭の灯袋などの中などの密封された空間に巣を作っているのであれば・・・ガムテープなどで穴をふさいで閉じ込めることをオススメいたします。
ただし絶対に無理はしないでください。素早く作業ができてもハチの攻撃を受けることがあります。
少しでも危ないと思ったらハチの活動が鈍くなる早朝や夜に行うか、プロに頼みましょう。
ハチを閉じ込めるこの方法の利点は、巣を落とすよりもハチを刺激しないで、しかも素早く作業を終わらせることができる点です。
手早く終わらせることができれば、ハチに刺されるリスクは減ります。
ハチを閉じ込めたあと、殺虫剤を持ってきて撃退することもできます。
ハチの巣を除去するときにお墓職人がしていること
お墓職人の私が、墓地でハチの巣駆除する時に気を付けていることをお伝えします。
1)ハチの動きが鈍い涼しい時間帯を狙う。
ハチは15℃以下になると動きが鈍くなります。10℃以下になるとほとんど動かなくなります。
ですから涼しい早朝、明け方の時間帯にハチの巣を駆除します。
ただ、夜中はあまりオススメしていません。それはハチは温まりやすくその温度が維持されやすい場所を選んで巣を作るので、夜だと日中の熱が残っている場合があるからです。
また墓地は足元が悪いことが多いので、作業には十分気を付けてください。
暗闇で明かりをつけて近づくとハチが寄ってくるかもしれません。
ライトを使う場合は、赤色のフィルムなどをかぶせることで、ハチが反応しにくくします。
2)ハチを刺激しない服装、配慮をする。
- 黒い服装、黒い持ち物を持たない。(ハチは黒いものを攻撃する習性があります。)
- 明るい服や蛍光色のものを身に着けない。(花と間違われる可能性があります。)
- あまり急激な動きをしない。(ハチは攻撃を受けたと感じない限り刺すことはほとんどありません。)
- 香水やコロンなど、強い香りを放つものを身に着けない。あまりお風呂に入らない人も体臭が強くなり、ハチが近寄ってきます。
3)仕留めるときは殺虫剤を使用する。
ハチを仕留めるときは殺虫剤を使用します。
ハチ用でなくても大丈夫。
・スプレー式殺虫剤(エアゾール型)
・ゴキブリやハエなどの殺虫剤(合成ピレスロイド系)
でハチに十分効きます。
まず風上から殺虫剤をかけながら近づきます。
*もし事前にガムテープなどを使い密封空間に閉じ込めることができればそうしておきます。
殺虫剤でハチが絶命するには数秒間の噴射が必要です。
巣の場合は20~30秒はかけ続けます。
ビックリしたハチが飛び上がっても、噴射を止めてはいけません。
4)巣の除去
ハチがいなくなったり動かなくなったらハサミで巣の根元を切り、ハチの巣を取り除きます。
ハチは一度巣を作ると再び同じ場所に巣を作る習性がありますので、お墓にこびりついている巣の根っこもカッターなどを使ってこそぎ取ります。
終わったら最後に巣を作っていた場所に殺虫剤をかけておきます。
そうするとハチが戻ってきて巣を作ろうとしても、残っている殺虫剤に触れて死んでしまいます。
番外)雨が激しく降っているときに作業を行う
夜や早朝に作業ができないときは、雨が激しく降っているときを選んでハチの巣除去作業を行うことがあります。
特に夏はスコールのような雨だとハチは飛ぶことができません。
ただし雨の日は慣れていないと作業効率が落ち、視界が悪くなります。
そして石は濡れると滑りやすくなるため危険度も増します。
雲の動きや気温の変化を感じて「もうじき雨が降りそうだ」と判断ができる必要があります。
今ならスマートフォンのアプリでかなり正確に雨雲の動きをチェックすることができますので、私はそちらも活用しています。
もしもハチに刺されたら
ハチに刺された場合、以下の手順で対策を取っていきます。
1)症状を点検する
・刺された周辺だけに症状が現れている。
→局所症状:近くに皮膚科がない場合、自宅で応急処置を行います。
・吐き気、めまい、けいれん、じん麻疹など全身に症状があらわれている。
→全身症状:救急車を呼ぶか、近くのアレルギー内科へすぐに受診する。
*ショック症状は10~15分ほどでひどくなります。受診もそれくらいスピーディーにする必要があります。
2)針が残っていないか点検する
・ミツバチに刺された場合、患部に針が残っている場合があります。
→ピンセットやカードの端っこなどを使って抜き取ります。
硬化を2枚使って挟んで抜き取ることもできます。
3)毒を絞り出し、流水で洗い流す
・患部周辺をつまんで毒を絞り出すようにする。
・ハチ毒は水に溶けやすいので、大量の水で洗い流すのが効果的です。
*間違っても毒を口で吸いださないようにしてください。虫歯や傷口、歯茎などから体内に吸収されることがあります。
4)虫刺されの薬を塗る
・抗ヒスタミン成分が入っている軟膏がおススメ。
・アンモニアは効きません。「ハチに刺されたらおしっこをかけたらいい」というのは迷信ですし、バイ菌が入って余計にひどくなります。
5)患部を冷やす
・保冷剤などを使って患部を冷やします。
・冷やすことで血管が収縮して、毒を吸収しにくくなります。
6)病院に行く
・患部だけが腫れている場合
→皮膚科
・けだるさや麻痺症状、じん麻疹などが患部以外の全身に広がっている場合
→大きな病院、アレルギー内科
*自宅で応急処置をした場合も、念のため病院で受診されることをオススメします。
個人での駆除に自信がなければ、専門家に任せるのが得策
お墓に作られているようなハチの巣は、最低でも年に1度くらいはお参りされているせいかあまり大きくなることはありません。
ただ、ハチに刺される原因で最も多いのは『自分で駆除することによる失敗』です。
特に墓地でよく見かけるアシナガバチは、スズメバチと比べて攻撃性は劣るものの、実は毒性の強さはほとんど変わりません。
ハチ駆除の専門家や経験豊富なお墓職人に頼むことで、被害や不安を心配することなく、ハチの巣の不安を解消できます。
その上で今後ハチが巣を作らないように対策を立てることもできます。
ハチの巣について少しでも不安に感じることがありましたら、遠慮なくお問い合わせください。