「アレクサ、コロナウイルスについて教えて」
全国に非常事態宣言が出されて2週間。
日常生活が目に見えて変わってきた頃、ふと改めてコロナウイルスについて調べてみようと、スマートスピーカーに語りかけました。
スマートスピーカーとは、音声入力で動く対話型の機械のことです。
「アレクサ、〇〇について教えて」と話かけると、インターネットの検索結果を音声で教えてくれます。
「厚生労働省ノ ホームページ ニヨルト…」
人工的な女性の声が、少し奇妙な抑揚で新型コロナウイルスについて語り始めると、私の左手が引っ張られました。
いつのまにか6歳のチビが私の左手をギュッと握り不安そうな顔で見上げています。
「なんか怖い…」
「アレクサ、停止。ありがとう」
私はすぐにスマートスピーカを止め、チビを抱き上げました。
少し重くなったな。
思えば最近、だっこもしていなかったことに気付きました。
「大丈夫だからね」
抱きかかえたチビにそう伝えると、何も言わずギュッとしがみついてきました。
休校中でも普段と変わらない様子だったチビですが、やはり子供なりに不安に感じることがあったのでしょう。
もしかすると、私もいつもより険しい表情になっていたのかもしれません。
そして、本当に大切にすべきものを見失っていたようです。
しばらくすると、私がにしがみついていた小さな手の力が少しゆるみ、呼吸も少し落ち着いてきました。
窓の外に目をやると、富山では珍しいくらいの青空が広がっています。
「そうだ。いまから自転車の練習にいこうか?」
私の提案にチビはとびっきりの笑顔で応え、外に飛び出していきました。