年の瀬にお墓職人に受け継がれたもの

  • 2018年12月31日
  • 2021年2月10日
  • 日常
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「やっぱり粒あんだよね」
「お前にはこしあんの上品さがわからないのか?」

そんな不穏な空気で、10年ぶりの餅つきは始まりました。

わが家には父が作った石臼がある。
石臼と言っても餅をつく方の臼です。

直径1尺7寸5分(約53㎝)、高さ2尺3分(約61㎝)。重さは約350㎏。
こんなに重いと普通の人はまず移動させることも生すかしいでしょう。
仕事で石を動かしている私でも、道具なしだと取り扱うのがしんどい重さです。

この石臼の側面には朱雀、青龍、玄武、白虎の彫刻がほどこされています。
石職人だった父の遺作でもあります。

初孫が生まれたとき、「餅つきをさせたい」と父が2週間くらいかけて作りました。
このほかにも「土いじりをさせたい」と自宅の駐車場の片隅に畑を作ったり、「孫が幼稚園でお茶を習ってきたから」と茶臼を作ったりしています。
子供たちが逆上がり上手なのも、孫のためにと父が鉄棒やウンテイを作って練習したからです。

父はいろんなものを作るのが好きな人でした。
いや、正確には、自分の作ったもので喜んでいる姿が見るのが好きな人でした。

そんな思いのつまった臼を眠らせておくのはもったいない。
そう思い立ち、今年は餅つきをすることにしました。

 

2018年12月30日午前10時。餅つき開始に向けて準備を始めました。
10年前はほとんどの準備を父がしていたが、今は私が石臼の準備をし、妻がもち米の用意をしています。
以前はわからなかった段取りも、今では前もって何を準備して、次に何をすべきかわかるようになっていました。
毎日同じことの繰り返しのように感じていた10年の間に、私も少しは成長していたようでした。

ゴマ餅やきなこ餅、豆餅に昆布餅。
大根おろしと絡めたおろし餅。
そして今回初めて作った食紅と砂糖を入れたピンク色の砂糖餅。
もち米は4升、約6㎏使いました。

「つきたてのお餅は美味しいね」
そう言いながら餅をほおばる5歳のチビは、石臼を作った自分の祖父のことを知りません。
「この石臼はじぃじが作ったんだよね?」
チビは石臼をなでながら聞いてきました。
磨きこまれた石の手触りがお気に入りなようです。

「そうだよ。じぃじがみんなにおいしい餅を食べさせたくて作ってくれたんだよ」

 

年の瀬の忙しい時期、餅つきの準備をするのは大変です。
それでも平成最後の年末に、みんなでひとつのことができてよかったと思います。

「来年も餅つきをしたいか?」
私が聞くとチビは大きくうなずきます。

その口の周りには粒あんがべったりついていました。