「やっぱり粒あんだよね」
「お前にはこしあんの上品さがわからないのか?」

そんな不穏な空気で、10年ぶりの餅つきは始まった。

わが家には父が作った石臼がある。石臼と言っても餅をつく方の臼だ。
直径1尺7寸5分(約53㎝)、高さ2尺3分(約61㎝)。重さは約350㎏。
こんなに重いと普通の人はまず移動させることもできない。仕事で石を動かしている私でも、道具なしだと取り扱うのがしんどい重さだ。

この石臼の側面には朱雀、青龍、玄武、白虎の彫刻がほどこされている。
石職人だった父の遺作である。

初孫が生まれたとき、「餅つきをさせたい」と2週間くらいかけて作った。
このほかにも「土いじりをさせたい」と自宅の駐車場の片隅に畑を作ったり、「孫が幼稚園でお茶を習ってきたから」と茶臼を作ったりしている。子供たちが逆上がり上手なのも、孫のためにと父が鉄棒やウンテイを作ってくれたからかもしれない。

父はいろんなものを作るのが好きだった。
いや、正確には自分が作ったもので人を喜ばせるのが好きだったのだろう。

そんな思いのつまった臼を眠らせておくのはもったいないな。
そう思い立ち今年は餅つきをすることにした。

2018年12月30日午前10時の餅つき開始に向けて準備をする。
10年前はほとんどの準備を父がしていたが、今は私が石臼の準備をし、妻がもち米の用意をしている。以前はわからなかった段取りも、今では前もって何を準備して、次に何をすべきかわかるようになっていた。
毎日同じことの繰り返しのように感じていた10年の間に、私も少しは成長していたようだ。

ゴマ餅やきなこ餅、豆餅に昆布餅。
大根おろしと絡めたおろし餅。
そして今回初めて作った食紅と砂糖を入れたピンク色の砂糖餅。
もち米は4升、約6㎏使った。

「つきたてのお餅は美味しいね」
そう言いながら餅をほおばる5歳のチビは、石臼を作った自分の祖父のことを知らない。
「この石臼はじぃじが作ったんだよね?」
チビは石臼をなでながら聞いてきた。磨きこまれた石の手触りがお気に入りらしい。
「そうだよ。じぃじがみんなにおいしい餅を食べさせたくて作ってくれたんだよ」

年の瀬の忙しい時期、餅つきの準備をするのは大変だ。
それでも平成最後の年末に、みんなでひとつのことができてよかったと思う。

「来年も餅つきをしたいか?」
私が聞くとチビは大きくうなずく。

口の周りには粒あんがべったりついていた。

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