「ののさままんまい」は共通語ではなかった
「ののさままんまいしようね」
お墓の前で、5歳のチビに促します。
仏教系の幼稚園に通っているからでしょうか。
いつになく真剣です。
そしてかわいい(笑)
という親バカな話を県外の友達に話すと、
「『ののさままんまい』って何?」と言われました。
「ののさま」も「まんまい」も、共通語ではないことを知った瞬間でした。
Facebookで聞いてみた
他の人にも聞いてみたく、Facebookで「『ののさままんまい』って文を読んで、意味はわかりますか?」と呼びかけてみました。
すると半日ほどで全国から20人の方がコメントを書いてくださいました。
約半分の方が「まったくわからない」という感じ。
富山県限定かなとも思いましたが、県外の方でも「わかる」「似たような言い方をする」という方がいらっしゃり、富山県限定というわけではないようです。
言い方も
- のんのん、まんまいして
- のんのんさま、あっ
- まんまんちゃん、あん
- のんのんさん、あっあ
- お仏壇になんなんしてね
- ののさま、まんまいちゃん
- チーンしよ
- まんまんさん、あんする
- まんまんちゃーん、アーン
- のんの様 あっあっ
微妙に違っているけど、並べてみると似ていますね。
お聞きした話では、浄土真宗、浄土宗系では「のの様、のんのん様」を使っているところが多いようでした。
「ののさま」と「まんまい」の意味
わが家では、仏壇やお墓に手を合わせることを「ののさまにまんまいする」と言ってきました。
「ののさま」は「のの様」と書き、わが家では「阿弥陀様」というニュアンスで使っていました。
わが家は浄土真宗なのでご本尊の「阿弥陀如来」を指していますが、大人の会話を聞いて「お釈迦様」や「仏様」「ご先祖様」なども含んでいると子供ながらに理解していたのを覚えています。
「まいまい」は「手を合わせてお参りする」と言う意味です。
改めてその意味を調べてみると
のの
神仏・日月など、尊ぶべきものをさしていう幼児語。ののさま。
「弁 (わきま) へ知らぬ稚子が、鉦 (かんかん) が鳴る、―参ろ、と仏頼むも」〈浄・小野道風青柳硯〉
上記に出てくる「小野道風青柳硯(おののとうふうあおやぎすずり)」は歌舞伎演目の1つで、宝暦4年(1754年)から演じられているそうです。
やはり昔から使われている言葉のようです。
手元にあった岩波国語辞書にも
ののさま【のの様】
仏様。神様。また、お日様。お月様。幼児語
岩波国語辞典
と書いてありました。
「まんまい」については見当たらなかったのですが、
「お参りする」が幼児語として「まいまいする」「まんまいする」に変化したのではないかと思います。
「ののさま」の語源
「ののさま」の語源はいくつか説がありました。
アイヌ語の「尊いもの」を意味する「ノンノ」からきたという説
インターネットで検索してみるとこんな投稿を見つけました。
のの様=のんの様
昔は尊いもの(神、仏様、太陽、月)などを
のんの様と呼んでいたようです。
その語源は不明ですが、
アイヌ語にもノンノ(尊いもの)という言葉があります。それが民謡・童謡として伝わり、
現在では幼児語、もしくは方言として残っています。
(ずばり「のんのさま」という民謡もあります。)教えて!gooより
ただ、アイヌ語を調べてみても「ノンノ」=「尊い」を示す出典は出てきませんでした。
「ノンノ」=「花」という意味が一般的らしく、集英社が発売している女性ファッション誌『non-no』はこれから取ったようです。
お経が「のんのん」と聞こえた説
僧が仏に経を上げるのが「のんのん」と聞こえる言葉から出た語。
岩波国語辞典より
とありましたが、私にはそう聞こえたことがありません。
ただ、「南無阿弥陀仏」などの「南無」を繰り返してみると「なむなむなむ……」となるので、それが「のむのむ」に転じ、「のんのん」となったのかもしれません。
実際に「南」が重なり「南々(なんなん)」から「のんのん」になった、という説もありますので。
仏教用語の「如如」からきた説
「如来」の「如」を二つ重ねた「如如(にょにょ)」という仏教用語があります。
意味は以下の通りです。
如如(にょにょ)
コトバンクより
さらに
真如(しんにょ)
仏教用語。あるがままにある状態のこと。この世のすべてのもの (諸法) の根底にある唯一無二の絶対の実在界のあり方は「その如くである状態」すなわち真如としか表現のしようがない。諸法の人法二空の本性を真如ということもあり,また,衆生の心の本来の清らかな状態である自性清浄心を真如と呼ぶこともある。
コトバンクより
つまり「如如」=「真如」=「心本来の清らかな状態」であり、そのような状態である神仏を「如如様(にょにょさま)」→「のの様」と変化したという説です。
「祈む(のむ)」からきたという説
頭を下げて祈ることを「祈む(のむ)」と言います。
これが転じて「のむのむ」→「のんのん」になったという説です。
「如来様」が変化したという説
長年、保育に尽くされた大関尚之氏によれば、ののさまは本来、「如来さま」で、それを親しみ深く「にょおさま」といい、それが呼びやすいように「にょにょさま」となり、「ののさま」になった。
くらしの仏教語豆辞典より
先の「如如様」に通じるものがありますね。
のの様の歌
仏教系の幼稚園では「のの様」と教えているところが多いようです。
うちの子供たちも地元の仏教系の幼稚園に通っているので、歌ってくれたことがあります。
Youtubeで探してみるとせいこく保育園の園児が歌っている動画がありました。
「のんのんののさま ほとけさま~♪」
めっちゃ可愛いですね。
「ののさままんまい」は大切なことを伝える合言葉
初めて「供養」という言葉とその意味を教えてくれたのは母でした。
「お墓を掃除してから、お墓の前で手を合わせて『ののさままんまい』ってお参りするのが供養なんだよ」
幼い私でもわかるなんとも簡単な説明ですが、今から思えば大事なことをしっかり含んでいました。
あるご住職にお聞きしたところ「もともと供養というのは諸仏に供物を真心から捧げること」と説明してくださいました。
そして「今では諸仏だけでなくご先祖様や故人の平安を祈るための追善供養も含められる」とのことでした。
このことから供養で大切なのは「相手を思う真心」。
そしてそこから発した「捧げるという行動」なのだと知りました。
「仏壇に手を合わせること」や「わざわざ帰省してお墓参りをすること」、「僧侶を呼んでお経をあげてもらうこと」など、その行為のすべてが「仏様やご先祖様、親しい故人に何かしてあげたいという気持ち」から発したものであれば立派な供養になると聞けて、ちょっと安心しました。
「ののさままんまい」は供養の心を伝えてくれる合言葉ですね。