お墓職人をしているとそんな場面に立ち会えるときがあり、とてもうれしいです。
山間部のお墓
それは山間部のお墓でした。
まるでトトロが出てきそうな山の奥。
多くの木々がひしめき、むせかえるような濃い緑の匂いが立ち込める中にそのお墓はありました。
「猿やカモシカどころか、熊が出てもおかしくない場所だ」
それが初めてその墓地にたどり着いた時の感想です。
墓地で猿やカモシカに会うことが珍しいことではありません。
さすがに熊に会ったことはありませんが、木の幹に引っ掻いたあとがあったり、熊の落とし物(フン)を見つけたことはあります。
その私が「今回、初めて出会ってしまうかもしれない…」と思ってしまうようなところでした。
そしてこれだけお墓が木々に囲まれていると、お墓も汚れやすくなります。
藻、苔、水垢、サビ……そのお墓には私が知るありとあらゆる汚れが見受けられました。
お墓にのぼって確認してみると「昭和十一年五月建之」と刻まれているのがかろうじて確認できます。
83年間、大切なお骨を守ってきてくれたお墓でした。
「若いころはお墓にのぼって掃除をしていたけど、今は危なくて手の届くところしかできないからねぇ」
お客様は申し訳なさそうにおっしゃいました。
お墓の周りに木々が茂っていると、汚れが付きやすくなるものです。
ましてやこれだけ古いお墓です。
手洗浄だけで目に見える汚れをとっても根っこの部分が残ってしまい、またすぐに藻やコケに侵食されることでしょう。
キレイな状態に保てないのも仕方ありません。
また経年劣化で不具合が出てきていて、のぼると危険な場合もあります。
お墓をよくみると蓮華は筋蓮華、御膳石(ごぜんいし)の形もいい。
手の込んだ作りと丁寧な仕事が見受けられます。
全体のバランスの良さと、細部への作り込みから腕のいい職人が丁寧に作った素晴らしいお墓です。
「せっかくですから、お盆までにきれいにしましょう」
私はそう提案させていただきました。
古いお墓をきれいにするときの注意点
古いお墓は石が劣化により脆くなっていることがあるので注意が必要です。
また建ててから年月が経っているため、経年劣化により石が突然外れて崩れることもあります。
実際にこのお墓もクリーニング途中、グラグラと動く石が見つかりました。
お客様がお墓にのぼらなかったのは正しい選択でした。
お墓職人によるお墓のクリーニング
高圧洗浄機によるクリーニング、薬品による洗浄、物理的に研磨することによる汚れ落とし。
いつもの3倍程度時間をかけて上から丁寧に仕上げていきます。
クリーニングの途中でお墓の不具合を見つけると、軽微なものであればその場で直していきます。
このお墓もグラグラしている箇所が、危ない箇所がありましたので修理、固定しました。
声にならない声
お墓がキレイになり片付けなどをすべて終わらせてから、お客様に見ていただきます。
キレイなお墓を初めて見ていただくこの瞬間は、私がとても好きな瞬間でもあります。
足が悪い奥様の手を取り、お客様は墓地までいらっしゃいました。
そしてきれいになったお墓を見て「ほぅ~」と嬉しそうにおっしゃいました。
それからさすりながらゆっくりとお墓の周りを歩きます。
奥様はそんな旦那様を目を細めて見つめていらっしゃいました。
人はうれしくなると声にならない声を出すことがあります。
そんな瞬間に立ち会えたとき、お墓職人でよかったと実感します。
お客様の声
石の立山様
この度は、お墓のクリーニングをありがとうございました。
今回、石の立山さんにお墓のクリーニングをお願いしたのは、80年経過した古く、汚れが酷いお墓のクリーニングをしようと思い、専門の業者さんにお願いしたいとネットで検索したところ、仕事に対する思い、熱意が一番伝わってきたからです。
早速問い合わせのお電話をさせていただきましたが、その日のうちにお墓を見に来てくださってありがたかったです。
実際にお墓を見ながらお墓についての説明をいろいろしていただき安心してお任せできるなと思いました。
こちらからお願いするまでもなく、お盆前までに仕上げますと言っていただきました。
綺麗にしていただいたお墓を見た瞬間、映画のタイタニックの一場面のような感じがしました。(ちょっと大げさですが(^^))
そして綺麗にしていただいた亀山さんと立派な墓を残してくれた祖父母に感謝の気持ちで一杯になりました。
また、早くに両親を亡くした祖父の家族に対する思いを大切にしなければという気持ちになりました。ありがとうございました。
最後に、職人としての亀山さんの思いが、大切にされているご家族に脈々と継がれていくことを切に願います。
*お客様に許可をいただき掲載させていただきました。